明るく黄色い綺麗なお花
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右方には繋いだ手を前後に振りながら、愉快な楽器隊のような音が鼻歌として聞こえてくる。
青い空にテラスのように並んだ雲が流れていく中、冬眠の名残を含んだコンクリートの上を歩く。立ち並んだ団地と古い戸建ての間を抜けて、毎朝の習慣である散歩がてらにスーパーを目指す。
これまで裸だった植木の木々たちも、近づきつつある春の陽気に胸を膨らませながら祝宴の準備のごとく実を膨らませつつあった。
そんな中、勤めを労う芸妓のように道端を彩る黄色があった。
「菜の花だ!」
綺麗な景色の一部に見惚れた声を妻が出す。
「町子はね、菜の花好きなの」
妻の語るような声を耳に納めながら肯く。
「桜とね、菜の花の色が好きなの。頭の上で桜がぱぁって咲いていて、下を見ると菜の花の黄色いお花が並んでいるの。耕ちゃんにも見せたかったなぁ」
ここが野原なら両手を広げて回ってそうな勢いで彼女は言った。
「見れるといいね。いつか見たいね」
決まったような段取りで微笑んで、独身時代には得られなかった可能性にお腹の少ししたのあたりがくすぐったくなった。
「いつか見たい。いつか見たいね」
今日は菜の花を見た。
綺麗に咲いた菜の花は、芸妓のように咲いていた。
誰よりも明るくて、そして花の中でも少しだけ早い季節に咲いていた。
太陽の下では、明るく黄色く、綺麗に咲いた花だった。