キングダムの焼きそばはとても輝いて見えた。

お題「今日のおやつ」

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Photo by Jonathan Kho on Unsplash

タイル床の上を光が反射している。スーパーの床から這い上がるように視線を棚へと移すと、そこには見慣れない赤とオレンジのパッケージを纏った四角いケースがあった。

 

知っている。見たことある。それはエースコックから発売されているインスタント焼きそばだ。食べたことある。スパイスの効いたソースがよく絡まった太麺が特徴で、ペヤングやUFOなどのビッグタイトルと並んで陳列されているのを見る。

 

しかし、なぜ重力にあらがうようにあげた視線が、そのケースにとまったかというと好きな焼きそばだったというわけでもない。いや、むしろ気分でいえば今日は絶対やきそばじゃない。毎夜、時計の針が12の指す頃、日付を越えればノーカウントと言わんばかりにカロリーを増しにかかるべく食べるラーメンとは待遇が違う。焼きそばは、本当になにも作りたくない時に食べたくないけど、作る時間も食べる時間も限られてるという時に、ウィダーインゼリーのようにして食べるためのアイテムと決まっている。

 

あいつには汁がない。1日3合を平らげていた大食漢からすれば、それは些かご飯のお供にするには頼りないものだ。

 

そんな焼きそばに目が止まっている。確かに時間はない。ウィダーインゼリーしてもいいくらいだ。しかし今回に限ってはそれとは全く別の理由でその棚にかじりついているわけではない。

 

キングダムだ。

 

キングダム。

 

そう、それはキングダムとのコラボを果たしていた。

 

キングダムは私の好きな漫画である。中国の春秋戦国時代を駆け巡った秦の将軍と王の話である。好きな漫画は、と聞かれて光の速度で候補としてあがる圧倒的な好きの詰まった漫画である。

 

気がつけば足を止めていた。視線も固まっていた。空気だけが私を避けて動いていた。

 

買いたい。けど焼きそばを食べるタイミングがない。買ったら無駄に食べるだけ。なきゃ食べない。毎日規定のカロリーを大幅に超えてゆく数字が頭の中で左右に揺れて踊っていた。

 

食べない。やきそばが欲しいわけじゃない。栄養にもならない。糖質も足りている。なんならペヤングなら百歩譲って食べる。エースコック、太麺、やきそば、確かにおいしい。しかし食べない。食べないのだ。

 

食べないなら、買わない、だ。

焼きそばは、買わない。

 

その時だ。

 

「欲しいの?いいよ。買いなよ」

 

背中の一点を西洋の槍ーーグレイブで突くような鋭さで助け舟が飛んできた。

 

グレイブ。嫁グレイブだ。

 

援軍によって、私の我慢の甲冑はいともたやすく破せ散った。

 

私はキングダムを手に入れた。

 

カロリー、ごはん、気にしない。

 

私は、キングダムを手に入れた。