ウィスキーの瓶を片手に池袋から富士山を目指し始めた七

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Photo by Joaquin Paz y Miño on Unsplash

 

 オレンジの看板が目に留まる。それは暗闇に漂う蛍のように、止り木をなくした人をからとるかのような曖昧な強さの光を灯し、腰を下ろす場所を示している。看板の灯りからは太い電源コードが伸びていて、お店の外壁に力強く刺さっている。お店がやっている間は点灯し、それ以外は消えている。

 さて、とお店を見上げた。店内に人影は見えないが、普段吸っている退屈な空気が店の中にも漂っていることがわかる。道行く人々がこちらを一瞥し、疲れた足取りで帰路へ向かうのが見えた。私は水を流せば綺麗な滝にも見える階段を、一段ずつ登りながらお店の入り口へと向かった。

 

 ガン、という音が鳴るのは、扉の立て付けが悪いから。続いてピンポンという音でスタッフはお客が入店したことを知る。私は正しくその段取りを踏んで、扉をガンと押して、ピンポンと鳴るセンサーに姿を触れさせながらお店へと入った。