ウィスキーの瓶を片手に池袋から富士山を目指し始めた六

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 たぽん、という音が耳に心地よい。体が揺れる度に砂利とウィスキーの瓶が手の中で揺れる。足下から伸びる白線は店に着くまで三度ある交差点まで伸びて、ほろ酔いの気持ちで足を運ぶ私を案内してくれる。最も引っ越して一年通った道を間違えることもないのだが。

 

 それでも羽衣のようなアルコールのふわふわした足取りは地面に誘導してくれる白線くらいあった方がありがたい。脳が溶けるとはきっとこういうことなのだろう。ストレートで飲むのだから、ウィスキー原液を体内に注ぎ込んでいるのだ。正常な成分が濃すぎる液体を薄めるために体の中で体で千切れ落ちていたとしても驚きはしない。溶けている、という実感こそないが、脳の血液に邪悪な塊が巡っている感覚くらいは感じている。

 

 それでもキャップを回すのだから、どうかしてるのかもしれない。今どきではないのだろうが、一昔前なら酒瓶を持って歩くなんて当たり前だったんじゃないだろうか。人間には遺伝子があるのだから、昔の習慣がこうして現代で現れてもなんらおかしいことなんてないだろう。

 

 冷や水を浴びたような風が渦を巻いて歩く脇を吹き抜けていく。提燈に光を灯すように、道行く軒下の電気が青暗い夕焼けにぼんやりと浮かぶ。その光を背に背に十分も歩けば、働くお店に着く。

 

 駅に従属するように駅舎に隣接した二階建ての建物の二階。そこが私の働いている店だった。